※盲目サスケ。微エロ


ひ、と引き攣れたような声がナルトの鼓膜を震わせた。空を掻くようにもがいた腕を取って、安心させるようにナルトの背中に回させる。白い喉は酸素を取り込もうと扇情的に上下して、サスケは圧迫感に小さくあえいだ。ナルトも乱れた呼吸を必死に整えて、ただ指先でサスケの顔をなぞる。泣きそうな顔をしてサスケもまた指先をナルトの髪に絡ませた。それから確かめるようにナルトの顔に指をはわせて、ナルト、と空気にとけてしまいそうな声。胸が詰まって嗚咽が漏れそうになる。

サスケは頑なに目を開けなかった。目を開けて、その先がまた真っ暗な世界なのが怖いんだろう。いくら瞳を抉じ開けても光が届かないのが怖いんだろう。俺の顔だって。もうてのひらの感触でしかサスケはおれを感じられない。震えたてのひらはただサスケなのに、ひたすら熱くていとおしむようにナルトを包んで、たまに目に入りそうになって危ないけれどそんなのはどうでもよかった。あけて、と言うとサスケがおそるおそる目蓋を持ち上げる。つるんとした瞳はけれども濁っていてまるで曇り硝子みたいだった。サスケの瞳が好きだったと痺れるようにナルトは思った。あのなによりも深い黒眸はいつだってナルトの世界で、鏡に映る自分がいやになった時でもその中にうつる小さな自分だけはきらいになれなかった。なによりサスケの瞳はいつだってサスケのことを雄弁に語っていて、たとえサスケの口からどんな言葉が出てきたっておれは目を見れば。目を見ればそれだけで。

サスケは焦点の合わない瞳でナルトを見上げて、ナルト、とまた呼んだ。赤くなった目尻に小さくたまった涙。たまらなくなって額を寄せ合う。汗ばんだ両頬をてのひらで包む。ここにいるよと言ってやりたかった。ここにいる。見えなくたってずっと俺はここにいる。サスケの心が少しでもそれを感じてくれればいいと思った。むかしサスケがおれの光だったようにおれもサスケの光になってやりたかった。届けばいい。届け。おれの想いぜんぶ、ぜんぶ、網膜にでなくていいから、心に、サスケのこころに、ひかりになって、とどけ。

無力なてのひらはただサスケの白い肌をあやすように撫でさするだけだった。目を閉じてサスケはその温度にすがる。ぴったり肌を寄せ合って、なんでもいいから分け合っていたかった。光がだめなら体温を。汗を。鼓動を。こころを。名前を呼んだ。言葉は声にならなかった。






フリージア
(120421)