見上げた空は憎たらしいほどに澄みきっていた。笑いだしたくなるような青空だ。痛みにひきつる頬の筋肉が変なかたちに歪む。眩しいほどの真っ青な世界と真っ赤に染まったてのひらの対比が目に痛かった。どう足掻いたって思い通りにならないことばかりなのにあぁ世界はこんなにも綺麗だ。
腕のなかでぐったりと弛緩している身体を抱きしめる手がかすかに震える。ただでさえ白い肌はもはや死人みたいに血の気を失っていて、そのせいで薄汚れた頬とか衣を染める赤黒い液体とかがやけに目立った。力の抜けた身体は記憶の中の少年のそれよりもずっと頼りなく感じて、それなのに気を失ったその顔だけは馬鹿みたいに安らかなのだ。死んでいるみたいだけど背中に回したてのひらからはドクンドクンという鼓動とそれに合わせてとめどなく流れ出る生温い鮮血を感じて、だからまだこの宝物の少年が生きているのだということがわかった。あぁでもこんな形は少しも望んじゃないなかったのに。早く止血しないと危険だということはわかっていた、それでもいまはどうしても抱きしめていたかった。
なぁ、サスケ。お前をこんなふうにした俺が言うのおかしいかもしんねぇけど。
俺ってばずっとむかしっから、お前しか見えてなくて。
いつまでもお前のとなりにいたかったしいつまでもお前の姿を見ていたかったし声を聞いていたかったし触れていたかったしできるなら抱きしめていたかった。それがだめならただ笑っていてほしかった。
いつだって俺の心の真ん中にいたたったひとつがサスケ、お前で。
お前は違うって言うだろうけど俺とお前はそっくりだったよ。まるで鏡を見てるみたいだった。だってお前じゃなかったら俺がこうなっていたかもしれないんだ。理不尽な世界のすべてを憎んで憎んで憎んで俺がお前と同じことをしていたかもしれないんだ。そんな俺を救い上げてくれたのがサスケお前だったのに俺はお前を救ってやれなかった。あぁごめんな、ごめん。結局こんな方法でしかお前を止めることができなかった。傷付け合うことはいくらでもできたのにどうして、どうしてだろうな。こうやって抱きしめて手を握る、たったそれたけのことがこんなにも難しいなんて。
あぁそれでも、いくら憎まれても裏切られても恨めやしない。傷つけても傷つけられてもどうしても傍にいたかったんだ。そんなのは不毛な依存だってみんな笑うかもしんねぇけど、でも諦められないんだよ。やめられない。だってそれじゃ俺は俺じゃなくなっちまうだろう。そんなのはだめなんだ、そんなのは。
なぁこんな俺をお前は笑うか、笑ってもいいよだから生きていてくれ。どうせお前は泣きたくたって泣けやしないんだろう。だったら声を上げて笑ってくれよお願いだからばかな俺を笑い飛ばしてくれ。
空を仰げば相変わらず太陽が眩しくて吐き気がした。なんだよ、邪魔するな太陽。俺とサスケをこんなふうにしか触れ合わせちゃくれない世界なんてくそくらえだ。いいから消えちまえ、お前なんかいらない。俺を照らす光はサスケだけで十分だしサスケを照らす光だって俺だけで十分だ。
あぁ頼むからまだ俺の目蓋に載っていて。
どうかその声を震わせてほしい。
あのまだ幼かった決別の日、最後に拳を付き合わせたときのお前の泣きそうな顔が未だに忘れられないんだ。
てのひら
(110402)
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