中途半端に衣服を乱されたまっしろな肢体の奥を抉るように突く。好き勝手に揺さぶって、溢れ出るような欲情をそのままサスケの身体に叩き付ける。そのたびにサスケは本来なら男を受け入れる器官ではないそこを熱く蕩けさせ、きゅうきゅうと切なげに絡みついてきた。
感じてしまってどうしようもないくせに、サスケはいつも必死に喘ぎを押し殺す。声など聞かせて堪るかという具合に、薄い唇をきつく噛み締め快楽に耐える。たとえ力を込めすぎて血が滴ろうとも、理性の残っているうちはけっして醜態を晒そうとはしてくれない。いくら酷く内側を揺さぶろうとも頭をゆるゆると力なく振るばかりで、何があろうともこちらに縋ってはこないのだ。そういうところが、サスケの綺麗で綺麗でどうしようもなく憎らしいところだった。
時折我慢が効かないとでもいうように僅かに漏れるあえかな吐息に、赤く腫れた唇に、ナルトはより一層欲を煽られる。切なく顰められた苦しげな表情に、心の中でひそかに嗜虐心が育つのを感じる。馬鹿な奴だ。本人はまったく意識していないであろうその強情さが却って男を煽るのだと、サスケは知らないのだろうか。それでも例え分かっていたとしても、サスケはけっして自分を犯す憎い男などに媚びることはしないんだろう。その氷のような矜恃がまた、サスケが絶対に手に入らない存在だということをナルトに知らしめた。遠く遠く、手の届かない。いくら身体を手に入れようが、けっしてこちらのものにはなってくれない。
馬鹿みたいだ。
より深く奥を突くと、サスケは薄い背中をしなやかに仰け反らせ、ん、と鼻にかかったような声を漏らした。はらり、ソファの背もたれに艶めいた黒髪が散って、白い喉が誘うように上下する。露わになった喉仏に顔を近付け小さく歯を立てると、ひくり、怯えるようにサスケの喉が鳴った。
「お前……こんな敏感な身体しといて、さぁ」
「……ッふ、……ん、ん」
「なーにがイヤ、だよ。感じまくっちゃってるくせに。お前のナカ、もうドロドロじゃんか。な、そんなにイイ?」
「ッあ、……よく、な……ん、ッ!」
「ちったぁ素直になれよ、お前。いやがってても身体は正直ですね、なーんて、どこのエロビだっての」
「……んぁ!……ふ、ぁ……ッあ……」
ぐん、と限界まで奥を突いて、それからギリギリまで引き抜き浅いところを焦らすように擦る。サスケは物欲しそうに奥をひくつかせ、良いところに当てようと無意識のうちに腰を揺らめかせた。ナルトを放すまいと締めつけてくるナカが熱い。
――ほんと、ヤバい身体しやがって。
本当はどんな豊満な身体をした女よりもこの身体が一番だと、自分が最もよく知っているのだ。
「あー、ほんと、やべ……サスケ、お前ってやっぱ、最高だわ」
「ッ、……ふッ、ん…」
「コエ、出しゃーいいのに……サスケがやらしく喘いじゃうの、オレ聞きたいってば」
「ぁ、ふ、ざけ……んッ……おんなが、いいって……!」
「あー、あれウソ。なに、気にしてたの?かわいいこと言っちゃって、うん。イジワルしてごめんなー」
「……きにして、なんか……ぁ、ッ……あぁ、!」
サスケは少しずつ声を抑えきれなくなっているようで、恨めしげに目を眇めては濡れた瞳でナルトを見上げた。同じ男であるナルトに後ろの穴を本来の役割とは異なる用途で使われて、好き勝手に突かれては女のように喘がされるなんて、プライドの高いサスケからしたらどれほどの屈辱だろうか。とても想像できない。少なくとも自分の立場だったら死んでも御免だ。
こんな狂気じみた行為を、友と呼んだ男に強いるなんて。きっと俺は根本的なところがひどくひどく歪んでいる。
(でもお前――抵抗、しねぇじゃん)
それなのにどうしてサスケがこのおかしな茶番に付き合ってくれているのか、ナルトには分からないのだ。
真夜中灯りも点けずに向かい合ったナルトの寝室で。唐突に押し倒した身体の、震える腰の穢れのない白さ。初めての感覚にどうしようもなく怯えて、ただ噛み締めていた唇の哀れな赤さ。
あの夜泣きそうに揺れてナルトを映した闇よりも黒いサスケの瞳が、ナルトには未だに忘れられない。
***
同居から三ヶ月、ナルトはサスケを避け始めていた。
自分がサスケに向けるこの執着がもはやただの友情ではないということに、ナルトはもう随分と前から気が付いていた。だからこそひとつ屋根の下で共に生活をしていれば、想いが少しずつ募って抑えきれなくなっていくのは当然だった。サスケを目の前にしたら自制心なんて効かない。いつか無理矢理にでも、サスケをモノにしようとしてしまうかもしれない。そんな自分が、ナルトは恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。
言うなれば、サスケのためを思って自ら遠ざけたというのに。
それなのにそれを許してくれないのが、当のサスケだった。理由もなしに避けられたんじゃ納得がいかねぇ。気に入らないことがあるのならはっきり口で言いやがれ。一週間ほど会話のない日々を続けた果てのある日の夜、いきなりナルトの寝室にまで押し入ってドサリとベッドに座り、サスケはそう主張する。
その瞬間ナルトの中で、何かがぷつりと音を立てて切れた。サスケはなにも悪くない、けれどもナルトの我慢になど何も気付かずにこうも無防備に詰め寄ってくるサスケが憎らしい。無性に泣かせてやりたくて堪らない。
――ヒトの気も、知らねぇで。
いつまでも想いを胸に秘めて抑えようとしている自分が、なんだか急に馬鹿らしくなってしまった。
しなやかな身体を無理矢理に押し倒して。
抱かせろよ、と耳元で囁いたのはほとんど自棄だ。
サスケは驚愕したように目を見開いて、暴れに暴れた。それはもう必死の抵抗だった。けれどもナルトだって、ここまで来たら逃がしてやるつもりは毛頭ない。解いたサスケの寝間着の帯で震える両手をきつく縛り、乱れた白い着物の前をすべてはだけさせる。それでもナルトを蹴り殺す勢いで、変わらず暴れてくるサスケに。
『オレ、お役目のせいで、お前が任務で里から出てない限り外泊禁止なんだけど』
冷たく囁くと、サスケの抵抗はぴたりと止まった。
黒硝子の瞳が戸惑うように揺れて、ゆっくり、ナルトを映す。
『わかる?溜まってしかたねーんだってば。お前、そうやって俺に迷惑かけてちっとは罪悪感あるなら――精欲処理ぐらい、なれば』
どうしても己の本心を口にできないナルトの、それが精一杯の言い訳だった。まるで糸が切れたかのようにいっさい抵抗しなくなったサスケを、ナルトは好き勝手に犯した。本能のままにサスケの身体を蹂躙して――そして、やっと。行為が終わった後まぶしい肢体を白濁に汚し事切れたように眠るサスケを見て、ナルトはどうしようもなくただ涙を流した。
後悔、していた。
それ以来、ナルトとサスケの関係は続いている。ナルトが身体を求めればサスケは初めこそ何かと理由をつけて渋るけれども、いつだって最後には、諦めたように目を瞑ってただナルトに身を任せるのだ。まるで監視の役割を果たすその代価として、サスケの身体を得ているかのようだった。じゃあなんだ、お前もし他の男が監視に付いてそいつが身体求めてきたとしたらやっぱりこんな簡単に脚開いてたのかよ、と泣きたいような気持ちになる。
いつだって本気で抵抗すれば抵抗できた。なのにサスケはそれをしなかった。そんなサスケの心境が、ナルトには分からないのだ。
サスケの心を揺さぶりたくて、いつしかわざとサスケの前で見せつけるように女と遊ぶのが癖になった。偶然を装いあえてサスケに見つかるような場所で、ナルトは何度も女と逢った。今日だって本当は、サスケのいない隙を狙って彼女を家に呼んだのではない。女と交わっているところを目撃させ反応を伺ってやろうと、そんな悪趣味な思いだった。
それで少しでも傷ついた表情を浮かべてくれれば、すっきりするかと思った。
けれども現実はなにも変わらない。サスケは驚くばかりでけっして嫉妬などはしてくれないし、それなのに相変わらずナルトに抱かれてくれる。アカデミー時代からサスケはとにかく遠くて遠くて、ナルトにはとても手の届かない存在だった。背中を追うだけで精一杯だった。だからサスケの考えることなど、ナルトごときに推し量れるものではないのだ。
どうしてだよ、サスケ。どうしてお前は俺を許す。どうして夜ごと犯されておきながら、平然としていられる。お前にとって自分の身体とは、そんなにどうでもいいものなのか。それとも本気で俺に同情して、性欲処理と甘んじながらも抱かせてくれているだけなのか。だとしたってあんまりじゃないのか。お前は本当に、それでいいのかよ。
(いいわけねぇだろ――サスケ)
別に、この身体が欲しかったわけではないのに。
前立腺をしつこく攻めたてて快楽に溺れる身体を激しく貫くと、サスケはもう耐えられないといわんばかりに柳眉を顰めふるふると首を振った。目の前で真っ赤に充血した唇が誘うように揺れる。吸い寄せられそうになって、慌てて自制心を働かせる。キスだけは、サスケがどうしても許してくれなかった。以前なんで、と聞いて、そういうことは好きな女にしろよと顔を顰められたことがある。……あっそ、サスケちゃんは好きでもない男にはキスさせてくれないんですか。ここまでやらしー身体しといて、どこのお嬢様だっての。身体はいいけど心はダメ、なんて。
(――ふざけんな)
ならば最初から、なにも与えないでいてくれればよかったのに。
(心が手に入らないのならいっそ、身体なんて要らなかった)
乱暴に最奥を何度も付いて、蕩けきった身体を好き勝手に味わう。サスケはついに限界になってしまったようで、欲情しきった吐息を隠しもせず淫らに喘いだ。きつく閉じられた瞼から美しく流れでた涙がはらりと頬を伝って、音もなくサスケの柔肌に染みる。いくら男に穢されようとも、サスケの身体はやはりどこまでも眩しかった。泣きたくなるほどの美しさだった。それなのにナカは遊び慣れた女のようにいやらしく絡み付き締めつけてくるから、どうしようもないのだ。あの、サスケが。ずっと遠くて、遠くて、憧れていて、届きたくて手の伸ばして追いかけ続けたサスケが、こんな、こんな形で手に入るなんて。男を咥え込まされて貫かれて、こんなにも淫らに、喘ぐなんて。
裏切ったのはこちらなのに、まるで裏切られたかのような錯覚を覚える。
本当はあいしてほしかった。この気持ちに気付いてほしかった。それがダメなら、せめてサスケの口からちゃんとダメだと告げられたかった。
こんな身体だけの絆など、要らなかったのに。
本当にほしいものはいつだって、遠すぎてナルトには届かないのだ。
「――サ、スケ……ッ」
「……ふッ、ぁ……あぁッ……ぁ、……ナル、」
「あーもう、美味そうにくわえこんじゃってさぁ。そんなにコレ、好き?」
「あぁァッ……や、いやッ……いやだ……ッ……んぅっ」
「いつまで意地はってんだよ。いいかげんかわいくヨガってみせろってば、この」
「ッあぁ!……やだ、ナル……ナルト……!」
サスケはいやいやするように頭を振って、いよいよ理性が効かなくなったかのように切なげに喘ぐ。ナルトの方もそろそろ限界だった。激しく出し挿れを繰り返して、サスケのいいところをピンポイントで突いてやる。そのたび嬉しそうに蠢く内壁に、欲情が昂ぶる。サスケはなんとか身体を苛む快楽から逃れようと、形のいい爪でソファの表面をカリカリと引っ掻いた。俺に縋りゃちっとは優しくしてやんのに、と思う。ここまで酷く攻めたてようとも、サスケはけっしてナルトにその腕を伸ばしてはくれないのだ。
ひでぇ、奴。
ナルトは小さく呻いて、サスケの奥の奥に欲望を吐き出した。サスケもまたドクドクと身体に注がれる熱い滾りに身を震わせて、あえなく啼いて、吐精した。
くったり、崩れ落ちそうになる身体を支えて。
「なぁ――なんでお前さ、俺にこんなこと許してくれんの」
ひそりと耳元で問い掛けたら、絶句される。
サスケの黒々とした瞳が大きく見開かれて、まるで傷ついたかのようにゆらゆら揺れた。情事の後で熱っぽく潤んだ瞳が、なんだか本当に、いまにも泣きだしそうに見えた。
「……し、るかよ、そんなこと……」
次の瞬間には吐き捨てるように呟かれて、ふいと目を逸らされる。
あぁ、頼むよサスケ。頼むからこんなのは嫌だと言ってくれ。
あの日、あのはじまりの夜。お前は知らないだろう。お前が抵抗を止めた瞬間俺を襲った、救いのない絶望を。知らないだろう。俺がいつもどんな想いでお前を抱いているのかを、どんな想いでお前を求めているのかを。
だから、はやく気付け。
――気付いてくれよ、サスケ。
(こんな関係、俺は望んでいなかった)
いつかお前のその清らかなてのひらに拒絶される日を、俺は恐れながらもずっと望んでいるのだ。
とけだした青
(091115)
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