※捏造たっぷり ※ぬるいですが無理やりめの性描写があります。苦手な方はご注意ください いつもいつも、同じ夢を見る。 その夢の中で、俺と同じ顔の、けれども金色の髪をして明るい笑顔を振りまく男は、温かい家族に包まれて笑い暮らしながらけれどもずっと一人の男を見つめていた。 その男は独りだった。独りで、けれどもいつも数多くの女に囲まれていた。夜な夜な女の前で空っぽな笑顔を振りまく空っぽな男を、俺と同じ顔をした男は、胸が締め付けられるような、歯痒いような、いっそ攫ってしまいたいような、そういう醜い気持ちで見つめていた。 俺は、否、その金髪の男は、心の底から思う。その瞳にこちらを映してほしいと、男を自分だけのものにしてしまいたいと。そうして手を伸ばす。 けれどもいつもその肩を掴む前に、男は目の前から跡形もなく消え去って、俺は目を覚ますのだ。 『まーた女のところかよ、サスケ』 いつも香水の下品な香りを漂わせて、彼の本来の匂いを覆い隠す、その甘い匂いが嫌いだった。 『んだよ。何か文句あんのか?』 『……べつに、ねーけど。けど最近お前、ますます女遊び激しくなったよなー』 メンマの軽い小言に、サスケはただ肩を竦めて目を逸らすだけ。いつもそうだ。こちらの真意なんて少しも気付いてなどいない、けして自らに立ち入らせない、その態度が嫌いだった。 『ちったぁ控えたらどうだってばよ? 忍者のくせに、だらしねェ』 『だーから、そんなことはお前に関係ねぇだろ? なんだよ、僻んでんの? 残念ながら、お前がモテないのは俺のせいじゃねーよ、メンマ』 『はいはい、んなことは分かってるっての』 表面上何でもないふうを装いながら、内心はいつも苛立ってたまらなかった。 僻んでいるのはサスケに対してじゃない。嫌いだった。独りの夜を埋めるように毎晩毎晩違う女といるサスケが。身体だけでもサスケの近いところにいる女が。 それらをただ見ていることしかできない、自分が。 『ほんとサスケ、ムカつく』 嫌いだった。 一目見た瞬間、彼があの男だと確信していた。 いつもいつも夢の中で金髪の男が見つめているその男は、何か自分を腹の内側から惹き寄せる、そういう不思議な引力を持っていた。凡その根城にしている里の外れの廃墟、偶然その近くを通りかかったその男を、自分は偶然とも運命とも言い難い必然さで目に留めたのだから。 衝撃だった。それはけして、夢の中の存在でしかなかった男を実際目にしたことに対する驚きからではない。彼を見た瞬間己の中にビリリと走った電気は、もっと異質で異常なものだった。 それはまさしく衝動というべく心に膨れ上がった、醜い醜い執着心。愛憎と独占心と支配欲といった、恋愛感情の汚い部分だけをすべて抽出して混じり合わせたような、そういう汚い、感情だった。まるでそれがずっと前からの望みであったかのように、あの男を組み敷きたい、自分のものにしたいとそう思った。 何を思うでもなく足が動いていた。男の家をなぜか俺は知っていた。だから夜中に彼の家を訪れて、そのチャイムを鳴らすのはあまりに簡単なことだった。 香水の香りをわずかに漂わせて玄関先に現れた男は、驚いたような顔をして俺を見つめて、お前、その髪の色どうしたんだよ、と云った。それから夢の中の通りの声で、名前を呼んだ。 「メンマ」 それがあの金髪の男の名前で、また男が俺をその名前で呼ぶことを、やはり俺は知っていた。 好きだったんだ。 ずっと、もう、ずっとだ。 幼馴染だ。小さな頃から彼の背中を、ずっと見てきた。温かな家族に囲まれ、人一倍家族を愛していた彼を。幼いまま、ある日突然独りにされた彼を。成長するにつれて、次第に女遊びに走るようになっていった彼を。 見ていた。だから知っていた。彼が人一倍、寂しがり屋だということを。孤独を埋めるように女に囲まれて、それでも心の中にぽっかりと空いた穴を埋めきれずに、未だ彼は、孤独なままだということを。 少なくともそれを分かっているのは、自分しかいなかった。だから自分が、サスケのその穴を埋めてやりたかった。顔も名前も誕生日もちゃんと覚えていないような女と寝るくらいなら、そういうことでしか孤独を埋められないのなら、俺がいくらだって抱きしめてやるのに。 救ってやりたいとか、理解してやりたいとか、縋ってほしいとか、 (そんなあまりにも傲慢なことを) 本気で、思っていたんだ。 動揺と怒りの中に隠しきれない怯えを孕んで揺れる瞳を、恍惚とした思いで見下ろした。 ギリ、と歯軋りが閑散とした男の部屋に響く。男は何とか拘束から逃れようと藻掻いたけれども、そんなものは俺の力の前には少しも通用しなかった。細い手首を掴んだ腕に一層力を込めると、男の端正な顔があっさりと歪む。 男の一人暮らしのアパート、部屋に入るやいなや押し倒して、その身体に馬乗りになって固い床に縫い止めた。 男は最初まったく状況が掴めていないといった顔で、なんだお前、なんの冗談だよ、そう言って眉を顰めた。けれどもいつまでも無言のまま身体を退かさない俺に、ようやく異変を感じ取ったのだろう。俺の獲物を捉えたような舌舐めずりをするような、そういう視線に気付いたのか、男は無音で息を呑むと、すぐに俺の下から逃れようと暴れてきた。 その抵抗をあっさりと封じて、両手をまとめて頭の上に捻り上げる。それから欲望を隠しもしない瞳で見下ろせば、男はようやく怯えの混じった表情で俺を見上げてきた。揺れた瞳。震えた唇。胸のすくような思いで見つめる。 「メンマ……お前いったい、どうしたんだよ」 上擦った声で男が呟いた。それに答えを返すことはせずに、ただ口元に浮かべた歪な笑みを深める。 そう、俺はずっとこうしたかったんだ。 この男に触れたかった。組み敷きたかった。自分のものにしてしまいたかった。ずっとこちらを映してほしかった、ふたつの黒硝子の瞳。まっすぐ俺を映して、揺れている。 ――この瞳の色を、どうして俺は知っているのだろう。 胸糞悪い香水の匂いが染み付いた襟元、俺は無言で、その衣服に手を掛けた。 『サスケ……もうさ、こんなのやめろってばよ』 生活味のないサスケのアパート。電気も点けない薄闇の部屋。向き合ったサスケはけれども頑なに、自分と目を合わせようとはしなかった。こんなにも近くに詰め寄って、見据えているのに、心はどこまでも遠い遠い気がした。届けるように、まっすぐその瞳を見据える。 『見てらんねぇよ。お前がそうやって、女と遊ぶの』 『……なんで、だよ』 どこか空虚に響くサスケの声は、まるで硬質なガラスのように、色も温度もなく、ただ渇ききっていた。床に投げられた視線。絡み合わない瞳。 『なにが言いたいの、お前』 どこか自嘲気味な投げやりさで呟かれたサスケの声はメンマの心に突き刺さるように、どこまでも冷たく、響く。 『だから……お前がそうやって女と遊ぶの……寂しいから、だろ。けれどもそんなことしたって、何も満たされないって、本当は分かってんだろ、お前』 サスケは何も言わないまま、相変わらずその瞳はこちらを映さなかった。 『なぁ、もうやめろよ。お前が苦しがってんの、もう見てられねーんだ……顔も覚えちゃいねーような女で寂しさ埋めたって、虚しいだけだろ? ……俺が、いるから。お前のこと、理解してやれる。傍にいる……好き、なんだ。だから』 そこまで言って、けれども言葉を止める前に、突如伸びてきたサスケの手に続きを阻まれた。 そのまま体重を掛けられて、抵抗することもできずに床に背中を付ける。口を押さえられたまま馬乗りになられて、押し倒されるような形で見下ろされる。 『……もう、黙れよ』 その時見上げたサスケの顔を、たぶん俺は一生忘れない。サスケはまるで笑っているような、泣き出す寸前のような、そういう今まで見たことのない表情で、俺を見下ろしていた。 『お前の言う通りだよ。こんなの何の意味もないって、ただの逃げだって、分かってる。でも、じゃあどうすればいい? 俺はどうやって寂しさを埋めればいいわけ? ……もう、俺の家族はいないのに』 サスケの下でバカみたいに固まったまま、何も言うことができなかった。喉が凍りついたように動かない。 ――あぁ、きっと愚かな俺はついこの瞬間まで、サスケの心情を本当の意味で理解してなどいなかったのだ。 『お前がいる? 笑わせんなよ、お前じゃだめだ。お前なんかには、あんなあったかい家族がいて真っ当に育ってきたお前なんかには絶対、俺の気持ちは分からない……なぁ、俺がお前をどんな思いで見ているか、分かってんのかよ。うらやましくてうらやましくて仕方ないんだよ。比べて、羨んで、自分が惨めで惨めで堪らないんだ――なぁ、分かってんの?』 心臓に冷水を掛けられたような心地がした。自分勝手な思いを抱えて、サスケに苛立って、理解しているなどと傲慢にも思って、俺はいったい、なんてことを。 サスケが妙に凪いだままの瞳を小さく揺らす。 『お前のそういう同情とか憐れみとか、そういうのが一番……俺にとっては、苦痛だよ』 そう、静かに、言って、それからサスケは、身体を倒しメンマの上に半身を寄せた。耳の脇で黒髪が揺れる。最も近くにサスケの体温があって、けれども何の反応をすることもできずに、ただ木偶のように天井を見つめ続ける。 『メンマ……お前は、いい奴だし、いい友達だよ』 けれども、ごめんな、とサスケは続ける。 『お前にだけは絶対、分からない』 何も、何も、分かっていなかった自分を、ぶん殴ってやりたくてたまらなかった。 脳みそがクラクラした。 心地よく鼓膜を震わす、引き攣れたような男の声。痙攣するように震えた身体。涙を流して、懇願するその表情。どれもこれもまったく知らない男の姿だった。それでいてもうずっとずっと見たいと思っていた、姿だった。逃げるように暴れた身体を掴んで、力任せに腰を打ち付ける。 なんで、と男は泣いた。なんで、メンマ、どうして、と。絶望しきったような顔で問いかけて、俺を見上げた。けれどもそんなこと、己にだって分からないのだ。怯えたように揺らめいて、俺を映すその瞳。 あぁどうして、俺はこの瞳を知っているんだろう。 奥を貫くたびに白い喉が空気を求めるように上下して、急所までさらけ出したその姿に嗜虐心が煽られてたまらなかった。もっともっと、この男のすべてを征服してやりたい。踏みつけて、嬲って、俺の下で跪けばいい。そんな歪んだ思いで、男の身体を蹂躙する。 ずっとずっと、こうしたかった。 (ずっと? ずっとって、いつからだ) もう何年も前から、ずっと。 (なにを、なにをしたかったんだろう) こうして組み敷いて、女のように貫いて、好き勝手揺さぶって。 ――あぁ、これは一体誰の望みだ? (俺は本当に、こんなことがしたかったのだろうか) 快楽はすべての思考を泥のように混ぜ合わせ、流していった。ただ欲望にまかせて男の中をかき回す。深い深いところまで抉るように貫く。 焦点の合わない瞳をただ天井に投げ捨てて、男はもはや抵抗もなく人形のように揺さぶられているだけだった。その姿にすらゾクゾクと支配欲を擽られる。いまはもう俺のモノになった男の、そう――サスケの、姿。 (サスケ) その三音が心地よく舌に馴染んだ。呼び慣れた、もう何度も口にした、名前。もうずっとずっと昔からこの名前を呼んでいた気がした。はたしてそれは夢の中でか? かつて俺が望んだことは、いったい何だった? (サスケ) (違う。違うんだ) (こんなことがしたいわけじゃなかった) 俺はただ、サスケの孤独を癒してやりたいって。俺が、そういう存在になりたいって。 そう、ずっとずっと、思って、いたのに。 (ごめん、サスケ、ごめん) ぐちゃぐちゃに蕩け切った頭が真っ白になって、次の瞬間には男の中に欲望をぶちまけていた。男はヒ、と怯えたような悲鳴を漏らして、それから小さく白い身体を痙攣させる。涙に濡れた瞳は、もう光を失ってどろどろに濁っていた。 奇妙な高揚感の中に心にぽっかりと穴の空いたような心地がして、余韻を味わうこともなく男の中から引き抜く。 こぷりと溢れ落ちた男の下肢を汚す白濁を見て、自分の瞳から一滴、涙が溢れ落ちた。 あぁ、これは一体、誰の涙だった? カルマの坂
(120916) 黒化したメンマに元の自分の記憶はないと思うけど、まるで夢の中のことみたいにぼんやりと記憶してたらいいなぁというお話でした。分かりづらくてすみません。普段のもだもだが、黒化していけない方向に爆発しちゃうという構図がとても…好きなのです… Back |