木の葉に戻るつもりなんて微塵もなく…兄をはじめ、家族を、一族を殺した里に未練を感じるわけがなかった。むしろ復讐の殺意に満ちていた。
それなのに、金髪のバカ正直なウスラトンカチがうざったい程しつこくて呆れる程に太陽みたいに眩しくて、殺す気でさえいた相手なのにも関わらず「もう、帰ろう」と差し出された手を掴んでしまったのだ。
何故かはわかってるけど言いたくないし、言わなくともそいつにだけは伝わってるからいいとして、里に戻った抜け忍の重罪犯を半年の監禁と暗部による24時間体制での監視だけで済んだのが不思議なくらいなのは悔しいがやっぱりそいつのおかげなんだろう。
半年の監禁を終えて久々に里内を歩く俺達を、否、俺を見る人々の視線は否難じみていて後ろめたい気にはなるが罪悪感は感じられない自分に自分はまだこの里に復讐したいと思ってるのかと問い正したくなる。

「サスケ?」
「あ?」
「大丈夫かってばよ?」
「…っ!、なんでもねぇよ」

思考に耽り、立ち止まった俺を不安と心配が入り混じった表情で見つめられ不意にそっぽを向いた視線の先には里内に住む幼い忍の兄弟の姿。弟はまだアカデミーにすら行ってないだろう幼い無垢な笑みで兄の額宛てを羨望を込めた眼差しで見つめてはしゃいでる。忍の世界がどんなに辛いか、どんなに悲しみが渦巻いているのか、何もしらない無垢な笑顔で兄を見つめ、またその兄も優しげな微笑みを弟に向けながら額宛てを自慢気に笑っている。その兄弟の姿にいつかの自分と俺が殺して…死んでしまった兄の幼い時の姿が重なる。

「…にいさん」
「サスケ?」

何も知らなかった自分。どんなに悔やんでも悔やみきれない兄への想い。また、兄がどんなに苦しかったのかを考えたら無性に泣きたくなった。
二度と泣くまいと決めたはずなのに、胸が締め付けられるように苦しくて視界が滲んだ時ふと背後からボフンと煙が立ち上がったのに気がついて振り返ってみるとそこにはいつしかの幼い姿のあいつがいた。

「…」
「…ナルト?」

アカデミーの頃のアホ面でいけすかないとばかりの膨れっ面が懐かしいなんてぼんやり考えていたら幼い手が痛いくらいにぐいっと手を引っ張り出した。

「お、おいっ、…ナルト!」
「…」

わけがわからず、そいつは黙ったまま幼い背中を向けて先へ先へと歩き出す。
懐かしい河辺まで連れてこられてようやく立ち止まったそいつの顔は何故だか拗ねていて、

「どうしたんだよ?」
「…俺、昔言ったよな?」
「何を?」
「お前のこと兄弟みたいに思ってるって…兄弟がいたらこんな感じかなって思うって…」

随分と昔にともだちだ!と言われてはじめから一人だったお前に何がわかると突っぱねた時に喚かれた言葉を思い出して、何を今更と思いながら相手を見るとへへっと照れくさそうな顔で笑っていた。膨れたり拗ねたり笑ったり忙しい奴だ。

「今はさ…違うんだけど…でも、やっぱ、あん時そう思ってたのはホントだし、今日だけでいいから俺の兄ちゃんでいてよ…サスケ」
「…」

甘えるように上目使いでこちらを見上げてくる空色の瞳に、自分が幼かった頃アカデミーからだったり任務から戻ったりして帰宅したイタチにまとわりついていた自分を重ねて弟が出来るというのは兄という立場を考えながら兄さんもこんな気持ちだったのか…なんて複雑な心境で苦笑を浮かべた。
サスケの表情は複雑で切ないようなそれでも察することをさせないような苦いものだったけれど僅かな口元の綻びと黒い瞳の奥に慈愛の色が混ざっていてそれがたまらなく嬉しかった。

「サスケっ!!」
「ぉっ、おい!?」

里の兄弟を見つめる淋しげなサスケを今だけ兄弟として…、なんて昔の自分の願望と今のサスケの心を癒やしたいなんて大それたことを考えて自分がサスケの兄としてイタチを越えられそうにはないから弟として接してくれたらいい。そう思って幼い頃のアカデミー時代の自分に変化して怒られるか呆れられるかと想像していただけにサスケが仕方ないとばかりに僅かにでも微笑んでくれたのがたまらなく嬉しくて思わず抱きついた。
本音を言えば抱き締めたかったけれど、変化している為に身長差があったのでサスケの腰元にしがみつくような体制になってしまったけれどサスケは驚いただけで抵抗らしい抵抗をしてこない。それが許されてるみたいで、認められてるみたいで胸の奥がこそばゆい感情でいっぱいになりながら、きっと自分じゃ上手く言葉には出来ないだろうからせめて少しでもサスケにこのこそばゆさが伝わればいいと思いながらしがみついたサスケの服を握り締める手に力を込めた。

「サスケ!サスケ!」
「このウスラトンカチ」

兄弟なら呼び捨てにすんじゃねえというサスケはやっぱり慣れないことが照れくさいのかほんのりと白い頬を染めて小突くようにコツンと頭を殴る。けれど、その殴る力も全然痛みを感じないほどで優しく感じるそれがまた俺の喜びを増すばかりで愛しささえ込み上げてくる。

ああ、弟に変化して正確だったな。
兄ならイタチという完璧な適いそうにもないお手本がいたんだから…

そんなことを思いながらその日は兄弟として接してくれたサスケにこれじゃサスケを癒やすどころか自分が癒やされるみたいだと正直に話したら「…そんなことない」と素っ気ないながらも柔らかく微笑むサスケがいた。









『Lik』の詩月様から相互記念にいただきました!『年の差ネタ』でと趣味に走ったリクエストをしたらこんな素敵なお話を書いて下さった…ありがとうございました!
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