Scene.1

なんだこれ、とナルトは思った。

パサリ、絹めいた黒髪が耳元を掠めて揺れた。隠しきれないアルコールの匂いに混じって、それでもふわり、鼻腔に届く甘いにおい。しなだれるようにもたれ掛られて、触れ合った肩が馬鹿みたいに熱かった。
視線を隣にやれば、ほんのりと赤く染まった目尻に、頬に、白い肌。瞬きに合わせて、ふるりと密な睫毛が揺れる。
わずかに汗ばんだ首筋、うなじ、鎖骨。そんなものが乱れた衣服の隙間から垣間見えて、その危うい色香に慌ててナルトは視線を逸らす。
目を上げれば、顔見知りの先輩上忍が馬鹿みたいに目を見開いて、間抜けな顔でぽかんとこちらを見つめていた。

なんだ、これ。
うまく回らない頭で、もう一度ナルトは思った。

肩から伝わる相手の熱に、頭がクラクラする。至近距離から見る、そのきめ細かな肌、くたりと寄りかかってくるしなやかな身体。これは夢か現か幻か、分からない、けれども、例え幻であってもこれは非常にヤバいと思うのだ。
ふ、と吐息を漏らす音が耳を擽って、そんなわずかなことにも大きく心臓が悲鳴を上げた。
先程から鼓動は早鐘のように鳴りっぱなしで、もしかしたら元凶である隣の男にも既に気付かれているんじゃないだろうか。誤魔化すように日本酒を呷る。

ナルトのそんな不安も余所に当の本人はまったく呑気なもので、凍りつく空気もなんのその、ひとりふにゃふにゃと普段の仏頂面からは考えられないようなやり方で笑っていた。すり、と肩口に頬ずりをされる。真っ赤に染まった唇がゆっくりと動く。
名前を呼ばれた。舌足らずな声が、吐息と共に鼓膜を震わす。

「……ナ、ルトぉ」

――ああ本当に、頭がおかしくなりそうだ。




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Scene.2

サスケの少し汗ばんだ額に、はらりと散った黒髪が張り付いていた。長くて密な睫毛。上気した頬。赤く艶やかな唇から、ふ、と吐息が零れた。こくり、と息を呑む。自分の心臓の音がうるさい。
あぁちくしょう、ふざけんな。サスケ、お前が悪いんだぞ、お前が。こんなに、無防備だから。
俺がいつもいつも、お前を、どんな思いで。

酔いのせいもあってうまく頭が働かなかった。いつもならここまでくればヤバい、と思ってこの場を離れるのに、今日は少しも警鐘が鳴り響かない。サスケの寝顔を凝視する。手を伸ばして、触れようとして慌てて引っ込めて、また恐る恐る手を伸ばす。
けれども結局は本能に抗うことができなかった。数センチの距離でわずかに躊躇って、けれども触れてしまえばあっという間だった。
震える指で、額にかかったサスケの前髪をかき分ける。それから恐るおそる、サスケのすべらかな頬に触れた。包み込むように手のひらを這わせて、指のはらでそのしっとりとした肌の感触を味わう。サスケはわずかに口元を弛ませて、ん、と寝ぼけたように唸っただけだった。
真っ赤に色付いた唇に目が行く。わずかに開いて、濡れた柔らかそうな唇。ゴクリ、と喉が鳴った。頭は痺れたように機能しなかった。サスケの真っ赤な唇。近い。

柔らかな感触が唇に触れて、一秒後には、あ、と思った。

我に帰ったように唇を離す。今、自分はいったい何をしたのだろうか。心臓が早鐘のように鳴っていた。唇に残った、あまりにリアルな感触。思わず唇を押さえる。

……キス、した、サスケに。







Dear my Lush!・サンプル
(120905)