二リットルのペットボトルを持つ手がぶるぶると震えた。とっとっとっとっ、というジュースを注ぐ音だけがやたら室内に反響する。深呼吸をして、ナルトは先程から壊れそうなほど激しく高鳴っている心臓を鎮まらせようとした。おちつけ、と呟く。鏡に映る自分の顔を確認して、寝癖を簡単に手櫛で整えた。頬はやっぱり赤くなったままなかなか熱が引いてくれなかった。階段を上った先にあるナルトの部屋には、二年ぶりに再会した幼なじみが待ち構えている。 なんの連絡もなしに突然玄関先に現れたサスケは、呆然と立ち尽くすナルトによぉ、と飾りのないあいさつをよこして、それから視線をそこかしこに漂わせ、上がっていいかと呟いた。ナルトは返事をすることもできずに、ただこくこくと首を振った。先部屋いってて、なんか飲むもの持ってくる、なんとかそれだけを言って、逃げるように駆け込んだキッチン。閉めたドアに背中を預けてずるずると崩れ落ちて、なんだこれ、とナルトは思った。ありえねえ、とも。ただただ心臓の音を抑えるのに必死だった。 一階の廊下でもう一度大きな深呼吸をして、ナルトは階段を上り始める。一歩一歩踏みしめるたびにまた鼓動が高鳴って、火照るように身体が熱くなった。あんな最悪な別れ方をした幼なじみが、今日再びナルトの前に現れた。羞恥と歓喜と困惑がない交ぜになって、どうしたらいいか分からなかった。サスケの目的が分からない以上、喜ぶことも悲しむこともできない。いったいサスケは今日何をしに来たのか、判決を待つ囚人のような気分だ。とにかくナルトには二年前あんなことをしてしまったサスケと顔を合わせる覚悟なんかこれっぽっちも出来ていなくて、ただひたすら逃げ出したくてたまらなかった。 覚悟を決めて部屋に入ると、サスケはあの日と同じ位置に腰を下ろし落ち着かない様子で辺りをきょろきょろと眺めていた。サスケの前にジュースを置いて、ナルトもまたあの日の位置に座る。そのまま数秒間、気まずい沈黙が続いた。ナルトはなにも言い出すことができなかった。サスケはあの日をなかったことにしてまたナルトとやり直すつもりなのか、あの日のことを話して解決した上でやり直すつもりなのか、それともやり直すつもりなんかこれっぽっちもないのか、分からない、けれどもそれが分からない以上ナルトにはどうすることも出来ないのだ。 サスケは相変わらず言葉を探すようにナルトの部屋に視線をさまよわし続けて、それからようやく一言、きたねー部屋、と呟いた。 「……前より汚くなってんじゃねぇのか。ほんと、成長してねぇなお前」 成長してない、という言葉にカチンと来て、思わずナルトは言い返す。 「っん、なことねーもん!今日はたまたまきたねーだけで、普段はちゃんと掃除してるってばよ!」 「……その言い訳いっつもじゃねーか。むかしっから俺が言わねーと掃除しなかったくせして、誰がいっつもお前の部屋片付けたと思ってんだよ」 「そんないっつもじゃねーってばよ!だいいち頼んでねーし、サスケが勝手にやったんじゃねーか!」 「はぁ!?サスケがくれた大事なおもちゃなくしたから一緒に探してくれって泣きついてきたのはどこの誰だよ!あんときだってなぁそもそもお前の部屋がきたねぇから……」 「なっ、なっ……そ、そんな話はどーでもいいってばよ!サスケお前なぁ、五年前お前の部屋に行ったときお前があわててベッドの下に隠したのエロ本だって、オレ知ってんだぞ!」 「か、関係ない話してるんじゃねぇよ!それならお前なぁ、十二年前祭り行った時、はぐれて迷子センターでぼろ泣きしながら保護されたの忘れたとは言わせねーぞ!」 「あっ、あんときはサスケだって半泣きだったじゃねぇか……!ナルトがさらわれたーとか言って!はっずかしい奴ー!」 「てっめえ……!そんなこと言っていいのかよ、四つのとき寝ションベンしたお前の布団をこっそり干してやった恩を……」 「うぎゃああああああああ!!!!」 はぁ、はぁ、と肩で息をして真っ赤になりながらナルトとサスケは互いの顔を見つめ合った。もうやめようぜ、とナルトが呼吸の合間呟く。同感だ、と疲れきった顔のサスケが返した。物心ついた頃からの付き合いなのだ。お互いの恥ずかしい過去なんか知り尽くしていて、口喧嘩なんて始めようものなら共倒れは必然だった。だってずっとずっと一緒にいたのだ。本当に朝から晩まで互いの部屋に入り浸って、サスケのいない生活なんて考えられないって大袈裟でなく言えるほどナルトの隣にはいつもサスケがいた。それは小学校中学校と時が進んでも変わらずに、友達なんてものが同い年にたくさんできて、それでもなおナルトの一番はサスケだった。サスケだけがナルトの心の奥深くを揺さぶり、世界に色を与えることができたのだ。 本当に自分はこれっぽっちも、サスケのいない未来なんて想像してすらいなかった。 「……なにしに、来たの……」 否応なく解れた空気の中、やっとそれだけをナルトは呟いた。サスケがナルトに引導を渡すこの日をずっとナルトは待ち望み、そして恐れていた。 「言っとくけど……変わってねぇよ、俺の気持ちは」 昔のまま口が悪いところも大人げないところも全部含めて、ただサスケが好きで好きでたまらなかった。言葉を交わせば交わすほど、その想いはより強くなるばかりだ。 もし再び会うことができたら、その時はサスケから話を切り出させて、意図を知って、自分はそれに合わせてサスケの望む通りの関係を築こう。去年の誕生日をサスケのいないまま過ごして以来、ナルトはずっとそう思っていた。けれども実際顔を見てしまったら、もうそんなことはどうしてもできそうになかった。サスケは相変わらずどこまでもサスケで、それはナルトの二年間の空白も後悔もすべてあっさりと吹っ飛ばすのには充分だった。やはりナルトには諦めることなどできないし、幼なじみの距離で妥協することもできない。そうしたくたってもう駄目なのだ。 今だってそうだ。サスケを見た瞬間から心臓は鳴りっぱなしで、また瞳やら首筋やら唇やらに目を奪われてどうしようもない。かろうじて残っている理性が、危険だ、と訴えている。サスケはもしかしたら幼なじみとしてやり直すつもりなのかもしれないけれど、そんなことになったら今度こそナルトは何をするか分からなかった。先程出迎えて気付いたが、ナルトはもうサスケと身長が並んでいた。まだまだ成長期だから追い抜かすのはもうすぐだろう。元々サスケは線が細い方だったし、力があるのはたぶんナルトの方だ。本気でナルトが何かをしようとしたら、その時サスケに抵抗しきれるか分からなかった。 サスケはナルトの問いに狼狽えたように瞳を揺らして、それからふいと視線を伏せた。目尻がちょっと赤いのが分かる。それは、と空気を震わすような呟き。逃げ出したくなる心を叱咤して、ナルトは一心にサスケを見つめる。 「あの後、その、いろいろ考えたんだ……お前の、こととか。それで、」 申し訳なさそうにきゅっとサスケの身体が縮こまった。 聞きたくない、と咄嗟に思う。今すぐに耳を塞ぎたい気分だ。 「……ありえねぇ、って思った。だって俺もお前も男だし、ずっと、弟みたいに思ってたから、そんな、どう考えてもないだろって。……でもお前は、大事な幼なじみだし」 「……うん、いいよ。分かってるってば」 しどろもどろになりながら弁解するサスケになんだか申し訳なくなって、できるだけ笑顔を作りながらナルトは遮った。なにもお互い気まずくなると分かっていながら、すべて言わせるようなことではなかった。身体が冷えるような感覚を感じたのは一瞬、けれどもすぐに当たり前だと思い直す。当たり前だ。分かっていた答えだった。むしろサスケが今日こうしてナルトの元に来てくれて、先の見えない長い長い迷路に終止符を打った、それだけで十分だった。 諦めるつもりは微塵もないけれども、サスケはけっしてお世辞を言う人間ではないから、サスケが大事な幼なじみと言うなら、あんなことをしでかしたナルトをまだサスケは大事だと思ってくれているのだ。それだけで少しは救われた気がした。 「ありがとな、ほんと。わざわざ来てくれて……もう、帰っても大丈夫だから」 「……ナルト。話、聞けよ」 「いいってば。帰れよ。……いっとくけど俺はもうお前をそーいう目でしか見れねぇから、いまさら、幼なじみには戻れねぇし」 サスケにはなるべく告げたくなかった本音を、それでもはっきり言わなければならないとナルトは呟いた。それだけはきちんと分かってもらわなければならなかった。サスケに無防備にされたままで接せられて、再び同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのだ。サスケは怯むように息を呑んで、それから黙って床を睨んだ。いたたまれない思いで反応を窺うと、しかしサスケは眉間に皺を寄せて、聞け、と言う。けれども聞く気はなかった。サスケがナルトに聞けと言うのなら、それはきっとこの関係を修復するために彼なりに考えた妥協案なのだろう。けれどもそんなものナルトには意味がないのだ。幼なじみでは駄目だった。それならばどんな言葉も、今のナルトにとっては心を冷たくするだけの凶器でしかなかった。 それよりも早く、ナルトがサスケに伸ばしたくなる腕を抑えていられるうちに、立ち去ってほしかった。 「いいって。聞かない。……聞きたくねぇんだ。それくらい、分かれよ」 「そうじゃない、聞けよ」 「嫌だ。だから、なに言われたって俺はお前のこと諦めらんねーよ?サスケだってイヤだろ、男にそんなふうに見られんの」 「ナルト、」 「――サスケ!」 だんだんと苛立ちが込み上げてきて、ナルトは声を張り上げた。ナルトはサスケのためを思って言っているのに、いつまでも帰ってくれないサスケが嫌だった。サスケだってナルトのためになにかを言おうとしている、けれどもそんな優しさなんて今のナルトには毒でしかないのだ。 「も、子どもじゃねーんだ……。久しぶりにさ、好きなやつ目の前にしたら、我慢とか、できねぇし……前はキスで済んだけど、今度はもう、何するかわかんねーから……だから、帰れよ」 頑なに床を見据えて、震える声で呟く。顔を見たら本当に、なにをしでかすか分からなかった。どうしてこんなに苦しいんだろうと思う。ナルトはサスケを好きだけど、サスケはそういう意味でナルトを好きではなかった。それだけのことだ。それだけのことなのに、どうしてもやるせなさが込み上げてくる。 サスケは今度こそ怯むかと思いきや、む、と顔を顰めてナルトを睨み付けた。どうしてここで機嫌を損ねられるのかが分からなくて、ナルトはぽかんとサスケを見上げる。サスケは吸い込まれそうな黒い瞳でナルトを真っ直ぐに見つめ返すと、ふん、と鼻を鳴らした。 「……子どもだろーが。人の話は最後まで聞けって、クシナさんに習っただろ」 頭の中がカッと熱くなった。 ――あぁどうして、こいつはこんなふうに俺を煽るようなことばかり言うんだろう。思って、衝動のままにナルトは腕を伸ばしてサスケの身体を押し倒す。もうちょっと怖い目にあわなきゃ分かんねーのかな、とやけくそのように思った。サスケは肩を押さえつけられたまま背中を床に付けて、驚いたようにナルトを見上げた。その手首を押さえ直して、上から覆い被さるように四つん這いになる。 ナルトに組み敷かれながらもサスケの状況が掴みきれていないようなきょとんとした表情は相変わらずで、あぁ、やっぱりこいつにとっては俺なんてただの。 「いい加減にしろよ、サスケ!俺はお前に、こういうことしたいって思ってんの。分かってんのかよ!二年がなんだよ、もう俺が本気出せば、お前なんか好き勝手できるんだぜ?――それともなんだよ、幼なじみだからって、お前オレに抱かれてくれんの?」 くっ、と喉を鳴らして、できるだけ酷薄そうに見えるやり方でナルトは笑った。ちょっとひどいことを言って脅せば、いい加減サスケは逃げ出すと思った。こいつはいっつも俺のことをガキ扱いで、そういう意味で男だとなんかちっとも思っちゃいない。心のどこかで余裕をこいていて、俺に無理矢理どうにかされる可能性なんかこれっぽっちも想像しちゃいないのだ。馬鹿みたいだと思った。いつまでも純粋な子供のままでいるわけがないのに。 サスケはようやく現状を把握したようで、わずかに頬を赤く染めて慌てたように身体を強張らせる。 「なっ、ナルト……!だから、人の話を……」 「聞かねぇよ、まだ分かんねぇの……!?」 「聞けって」 「ふざけんなよ、俺は、ずっと……!」 「ナルト!」 「――ずっとずっと、お前のことばっか気になって仕方ねーんだ!」 ベチ、と勢い良くサスケの手が伸びてきて、唐突に目の前が真っ暗になった。 「俺だってなぁ……っ」 あの日から、とひっくり返ったようなサスケの声。視界は伸びてきたサスケのてのひらに塞がれて、なにも見えない。なんで、と思って慌てて引き剥がそうとすると、その前にまたぎゅっとサスケは力を込められた。押し付けられたてのひらが、熱い。 「俺だってお前のことが四六時中気になって仕方ねえんだよ、ばかやろう!!」 ――あぁ、どんな顔して言ったんだろう。 それだけを思って手のひらをひっぺがすと、耳まで真っ赤になったサスケとばっちり目が合った。ぼっ、とナルトまで一気に顔が赤くなる。サスケはあわあわと唇をわななかせて、それからばっと目を逸らした。黒髪が真っ赤に染まった頬に散る。 え、とようやくナルトは間抜けな呟きを漏らした。先ほどのひっくり返ったサスケの言葉がしわじわと脳に染みてくる。サスケがまた消え入りそうな声で呟く。 「……最後まで聞けって、言っただろうが……」 ――あれ。 「だから俺は、お前のことは、弟としか思ってなかったけど、あの日から、ずっと、お前のことが、頭から離れなくて……」 それって、まさか。 「キスだって、びっくりはしたけど、ぜんぜん嫌じゃなくて……でも、いけねぇって、お前は、その、男だし。……だから、その……離れようって、思ったんだ」 まさか。 「俺らの親だって、冗談じゃねえって思うだろ……それにお前も、一時の気の迷いかもしれねぇし……それで、怖くて、逃げたんだ。けど、もうずっとお前のことが気になって気になって、我慢できねぇで……それで今日、お前誕生日だから、だから……」 堪らなくなって、ナルトはサスケの頬に手を伸ばした。おそるおそる指を這わしてそれから包み込むように撫でると、サスケはびくりと目を閉じて、それでも受け入れるようにわずかに肌を寄せる。サスケ、と名前を呼ぶとまた薄く目を開いて、サスケは真っ直ぐにナルトを見上げた。その濡れた瞳は熱っぽく潤んで揺れていて、ナルトはごくりと息を呑む。普段あれほど回る口は今は笑ってしまうくらい震えて掠れていて、サスケは恥ずかしそうに目を逸らすとまた呟いた。 「……覚悟決めて、来たのに……勝手に勘違い、しやがって」 ごめん、とこちらもまた掠れきった声で呟いて、ナルトはゆっくりサスケに顔を寄せた。額を付き合わせて、いい?と囁くと、照れ隠しのように唇を引き結んだサスケが静かに目蓋を下ろす。なるべく優しく唇を押し当てて、サスケの薄い唇を小さく吸った。窺うように舌を伸ばして、抵抗がないのを確認するとゆっくりと歯列を割り開く。熱を持ったサスケの口内を擽るようになぞると、サスケもおずおずと舌を絡めてきた。ん、と鼻に掛かったような声を漏らして身を捩るサスケに、脳の奥が蕩けるような痺れに襲われる。サスケ、と唇同士が触れ合う距離で囁くと、サスケもまた熱っぽくナルトを見上げてきた。 「……ナルト」 それからサスケの白い腕がゆっくりとナルトの頭に回って、てのひらがくしゃりと金髪をかき乱した。今度はもっと深く唇を吸って、徐々に舌の動きを激しくする。くちゅくちゅと水音が静かな部屋に響いて、サスケの頬がまた少し赤く染まった。溜まった唾液をこくこくと呑んで、サスケはふるりと睫毛を震わす。 「……っふ、……ん、ぅ……」 頭がぼーっとしてもう何も考えられなかった。歯列の裏をねっとりとなぞると、サスケはびくびくと身体を震わす。触れあった肌がやけに熱い。ゆっくり唇を離すと、サスケは少女みたいな色をした瞳を熱っぽく揺らしてまた一心にナルトを見上げてきた。上気した頬がすり、とナルトのてのひらに寄せられる。胸が詰まって泣きそうでたまらなかった。すきだ、と溢れるように思って、それでも言葉は喉に詰まったようにどうしても出てこなかった。 二年がなんだ、と思った。二年、たった二年の差なんてなにも関係ない。せいぜいコンビニで堂々とエロ本買えるか買えないかぐらいの違いだ。そんな違いで、子ども扱いされなくなかった。サスケだってナルトのキスでもうこんなんだ。 「サスケ……」 「ナ、ルト」 Tシャツの隙間からゆっくりと白い肌に指を這わせて、サスケがわずかに身を震わせた、その時。 ピンポ――――――ン 場違いなほど明るいチャイム音が響いて、同時に二人は勢い良く身体を起こした。どくどくと鼓動を高鳴らせたまま冷や汗を流しながら見つめ合うと、階下からこれまた暢気な呼び声。 「一楽でーす」 「……あっ、あ、そっか、出前!」 頼んだんだった、あは、と笑うとサスケは呆れたようにため息をついて、さっさと取ってこい、と言った。乱暴に目を逸らして、乱れた黒髪と服をぐしゃぐしゃと整える。ちょっとぶっきらぼうなその態度は冷静になって照れているんだろう。ぐい、と口元を手の甲で拭ってサスケは今更ナルトが用意したジュースを飲み始めた。あーかわいいなーとそう思って、それから一楽のおっちゃんが少しだけ恨めしくなった。出前のことなんてすっかり頭から吹っ飛んでいたナルトが悪いけれども、だからってあのタイミングはないだろうと思う。もう一度同じムードには戻せそうになかった。 「その、サスケ……」 「なんだよ」 「つっ、続きは……?」 サスケはまだ一気に顔を赤くして、知るかよ!と叫んだ。やっぱりなぁ。肩を落としてナルトは立ち上がる。あまりおっちゃんを待たせるわけにはいかなかった。 部屋を出て階下に降りていこうとしたナルトを、しかしサスケの声が止める。 「ナルト」 「なんだよ」 再び部屋に顔を出そうとすると目の前でドアがバタンと閉まって、けれども気配でサスケがそのドアに背中を預けているのが分かった。サスケ?とドア越しに名前を呼ぼうとすると、その前にちょっと固いサスケの声が鼓膜を震わす。 「おじさんとおばさん、いつ帰ってくるんだ」 「へ?父ちゃんはまだ海外だし、母ちゃんは出張だから明日の夜まで帰ってこねーけど?」 「――なら、いいじゃねぇか」 サスケの意図が分からなくてはい?と聞き返すと、サスケはドア越しにわずかに息を詰めて、ちょっと上擦った声で、呟く。 「……プレゼント、用意してこなかったから……お前のほしいものなんでも、くれてやるよ」 ――あぁ本当に、どんな顔して言ったんだろう。 嘘つきはライラックの夢をみた
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